2024年6月15日、英語基本指導技術研究会(略称 北研、下記参照)でMLS英語劇・ドラマメソッドのワークショップを行いました。これは太田(MLS代表)の著作「生徒の英会話力が向上する 英語劇・ドラマメソッド」の内容を実践的に披露したワークショップです。ワークショップ講師は、太田と副代表のClaudia O. Peretti。
日本全国から28名の先生方の参加があり、当ブログでは次の内容を含んでいます。
❶ 北研のメンバーであり、MLSの教員対象ワークショップや英語劇クラスにも参加した伊藤るみ子さんからのワークショップ体験レポート(流れと感想)
❷ 参加された先生方28名中、22名のアンケートPDF (下線は太田追加)
❸ 太田よりアンケート読後の補足説明など
アンケートを提出いただいた先生の95%が「5.大変良かった」と評価を頂きました。示唆に富む内容もあり、ぜひお読みいただきたいと思います。なお、ワークショップで配布した資料が本ブログに載っていないので分かりづらいところがあるかもしれませんが、ご了承ください。
*** 英語基本指導技術研究会主宰:北原 延晃(きたはら のぶあき)***
上智大学文学部英文学科・愛知淑徳大学交流文化学部非常勤講師
元東京都公立中学校英語科教諭、東京都中学校英語教育研究会研究部部長、東京教師道場助言者などを始め全国の研修会講師を歴任。旧文部省よりイギリス・エクセター大学へ派遣。NHK Eテレ「わくわく授業」で紹介された指導学年は、平成18年度実用英語技能検定試験(英検)優良団体賞を受賞。(準2級受検率・合格率全国公立中学校トップ)
主著: 文部科学省検定教科書『SUNSHINE ENGLISH COURSE』監修、『チャレンジ英和辞典カラー版』編著、『英語授業の「幹」を作る本』(上巻、下巻、テスト編、授業映像編、大学教職課程授業編上下巻)など多数
東京都葛飾区生まれ。東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中はESSに所属し英語劇に打ち込む。趣味は料理。
英語基本指導技術研究会(略称 北研)* HP https://www3.hamajima.co.jp/kitaken/
(肩書きは2024年3月現在)
❶英語科教員向け「ドラマメソッド🄬」ワークショップ体験レポート(伊藤るみ子)
~『心を英語で伝える喜びを “to experience real emotions”』
MLSの太田代表(Masa)とクロージャ副代表(Claudia)による待望のワークショップをご報告します。
分かり易いように進行順に私見を入れながら報告します。なお、当ワークショップは、太田代表が著作した「生徒の英会話力が向上する 英語劇・ドラマメソッド」を元に実施され、本文で参考カ所としてページ数が書かれていますが、すべてこの本によるものです。
1 MLSとは?「ドラマ・メソッド🄬」とは? By Masa
MLSの成り立ちのあと、英語劇は一般的には劇として上演することをイメージし、好きな人だけが行うものと思われていると思うが、「ドラマ・メソッド🄬」は、学校の教室で教科書を含め日常会話を劇化し、友だち同士で高め合うメソッドで、すべての生徒に学習機会を設けたいと解説。教科書の内容を生徒自身の中に染み込ませ、使えるように導くためのメソッドであるという点が学校現場で奮闘中の先生達の期待を高め、Ice Breakerへ。(MLSの経緯などはP.199)
2 Ice Breaker by Masa
やはり、教えるより学ぶ方が楽しい。すっかり生徒気分でall Englishの中へ。ワクワクが止まらない。
(1)Greeting -Create two lines and talk
挨拶の後、2列になり向かい合って自由なおしゃべり。ところが相手との距離を突然に広げられたり、狭められたり。次は背中合わせ。これは、相手の声に集中する練習。次に声の大きさをいろいろ変えてみた。これは声を出す心の抵抗を低め、必要に応じて自分の声量をコントロールする練習。
(2)Way of Walking
Stride(大股で)、 Stagger(〈酔っ払いが〉よろよろ歩く)、Wobble about (よろよろ歩く)、Stroll (ぶらつく)、Walk on Tiptoes(つま先歩き)などの歩き方の指示がでる。その歩き方で出会った人と挨拶、短い会話。羞恥心が消えていく。
(3) ”What are you doing?” Game
自分で考えた動作のジェスチャー中に” Freeze!” の声。その瞬間、凍り付いたようにその動作の途中の形で固まる。 ”What are you doing?”と問われ、片腕を前へまっすぐ伸ばし、片足立ちだった人は、”I’m playing Kabuki.” う~む、見得を切る直前か? 両腕を上げ、やや外股立ちで止まった人は、”I’m dancing at the summer festival.” 盆踊り!参加者は、いつの間にか演技の世界へ。
3 「MLS英語劇・ドラマメソッドワークショップ」 いよいよ本丸へ。 By Claudia
Part 1: Talk and Listen System (第3章より、先生が指示する英語スクリプトはP.102より)
[The First Step]
(1)Dialogue使用。ただし、左ページはAの台詞のみ。右ページはBの台詞のみ。自分の台詞だけを読む。
(2)自分の台詞をまず黙読。覚える。相手の目を見て言う。相手も目を見て聞く。この時は、理解が必要な段階。時間をかけてよい。ただし、相手の目を見て言う、聞くは守る。相手が何を言っているのか、理解しようと努める。その上で、自分の台詞を言う。まだ、完全に理解していなくてよい。
(3)相手が言っていることが不明の場合、ためらわずに”Pardon?” などで聞き返す。理解できるまで聞き返す。相手の声はだんだん大きくなり自然にgestureが生まれる。
(4)(2)の対話を下記の様にいろいろな設定で言う。これがDialogue Dynamics.
①(Aが) low : (Bが) high 男性の高い、可愛い声に思わず笑いも
②(Aが) slow: (Bが) fast slowは自然と低く威厳が、fastは高く軽やかになった
(当日はここまで。実際はたくさんあり。他のDialogue Dynamicsの例はP.82~83 に詳しい。)
③ くるっと一回転して台詞を言う。よろける先生達が、続出。お気をつけて。教室では運動神経が良い生徒が喜びそう。
(5)(4)の練習の意図を考える。
①、②⇒実際の会話は状況に応じて声の高さ、速さは変わる。実際に英語で対話するときに自然と自分の声を変化させるための訓練
③⇒くるっと回ってふらついても必ず相手の目を見る。アイコンタクトを取るための訓練。欧米人はアイコンタクトを取らないと、不安になる。アイコンタクトを取らないと自信のない人のように思われてしまう。日本人にはない習慣を身体に覚えさせる。
(6) Gibberish
言葉は意味のない、でたらめ言葉。表情、ジェスチャー、音調など、他の全ての表現活動でこの対話の内容を行っているように表現する。机に向かうお勉強はあんまりだけれども元気いっぱいの生徒諸君が張り切ること請け合い。自分を表現すること、伝えることは、解放感あり。
(7)Interpreter 3人1組での活動
3人の役割は、 Aさん:English speaker, Bさん:Japanese speaker, Cさん:Interpreter。
CさんはAさん、Bさんの間に立つ。Aさんは英語しか話さない。Bさんは、日本語しか話さない。
その間でCさんはひたすらAさん、Bさんをつなげる通訳をする。なかなか難。しかし、助け合いながら理解を深めていく。役割は全員交替で。全員の英語力がそれぞれ向上。(P.95-96)
[The Second Step ]
対話をオリジナルな作品にする。
(1)テキストの対話文の一部をペアで相談して、オリジナルなもの、自分達の気持ちにピタッとくるものに替える。例:固有名詞、動作などを替える。
(2)テキストにある2種類のエンディングのうち一つを選ぶ。
(3)A,Bのどちらをやるかを決める。
(4)今まで学んだ手法で練習する。テキストを見ても良いが、言うときは相手の目を見る。
☆ポイント☆
ここで、Dialogue Dynamicsで学んだ事、声の高低、大きさ、速さ、eye contactなどが生きてくる。Situation を自分達で作り、練習することで、「読む」から「演じる」になる。
○「演じること(行動すること)」はその英語表現を「経験したこと」になる。
⇒参照 Part2:Play Making 1学んだ事(2) ③
○ 真にcommunicative な英語になる。
Part 2: Play Making by Masa
1 学んだこと(筆者が特に学んだことを抜粋)
(1)ドラマ・メソッドR🄬は、スタニスラフスキー(Stanislavski, Russia,1863-1938)から生まれ、それがアメリカ演劇界に多大な影響を与え、MLSはNYブロードウェイの役者から”Talk and Listen” 方式を習った。
(2) MLSの演技に対する考え方: How MLS Thinks about Acting (P.83~)
① Acting is not showing, but doing. Doing under imaginary circumstances.
⇒誰にでもできること。
② If you were in this situation, what would you do? =If magic (Stanislavski)
⇒あなたの考えで演技(行動)する。
③ “Acting is not about imitating and make-believe, but about the ability “to experience real emotions.”
⇒ここで演技(行動)をすることは、その英会話を「経験」したことになります。
(3)MLSの演技(行動)で特に大切なこと
① Reality
② Keep Freshness
③ Read between the Lines.(Sub-text)⇒サブテキストをどのように解釈するか、が大切
(4)映画監督 濱口竜介氏(監督作品「ドライブ・マイ・カー」など)の手法にはStanislavskiの影響が生きている。(P.185)
(5)『現実に根付いた自然でナチュラルな演技、動き、感情の入れ方の方法で英会話を学習すれば、心からの表現・表情を引き出すことができる』(当日配布資料のP.10)
(6)生徒に英語劇の指導をする際のために「舞台の名称」と「舞台の位置による強さの違い」(日本の舞台とは異なる)は押さえてほしい。(P.57)
2 グループ演習: “Friday the 13th” (当日配布資料のP.13)
(1)7人グループを4つ作成
(2)最初は、感情を入れずに、ただし、目の前の人とアイコンタクトを取り、台詞を読む。
(3)(2)を繰り返し、場面、内容をグループで推測する。
(4)配役の検討、意味を考えながら読む。自然に感情が入る。残念ながら、このあたりで時間切れ。今日、初めてお話した方もいる中、初めての題材の理解を進めて行く作業はとても楽しかった。グループ学習は楽しい。
3 実際の英語劇の指導に向けてのアドバイス (当日配布資料のP.15~17)
(1) “Overall Vision of the Rehearsal Process”=本番までの指導推進日程
全体の日程の3分の2の頃に、” First Run Through”をするのがポイント。この後に様々なエクササイズで習ったセリフに”Break!”を起こす。
(2)Special exercises: To Keep Freshness 『いつも新鮮な気持ちで練習に向かうための練習』の紹介
(3)Conclusion; We stress “naturalism” for beginners, but for advanced actors, Lee Strasberg said, “You are being natural but that’s not enough. Natural I can see on a street corner. What we ask is that you be real.”
4 まとめ
「教える」人は、「学ぶ」が楽しい。日々、生徒と向かい合い、どうしたら彼らの力を引き出せるのか、伸ばせるのか、を真摯に考え続けている先生方にとって本日のワークショップは示唆に富み、目からうろこのことが多かったと思う。外国語指導についての新しいアプローチを学ぶ先生達は楽しそう。そして終わったときの充実した表情や太田代表の著書に早速見入っている姿から教師が学び続ける大切さに改めて気付いた。
ドラマメソッドは、友達のすごいところ、意外なところに気付く。だから、「楽しい」。友達と比べるのではなく、良さをリスペクトしあう。だから、「温かい」。それが「自己肯定感」を育む。そして、主体的に学び、生きていく力になる。本日のワークショップが、生徒さんの学びを促進し、先生方自身が一層楽しく授業ができるきっかけとなるように、と願っています。 以上
➋アンケートPDF
enquête❸アンケートを読んで補足説明など (太田雅一)
(➋のアンケートPDFを必ずお読みください。)
温かなアンケートへのフィードバックありがとうございます。28名の参加者があり、ほとんどの先生方にご満足いただけたのではないかとホッとしています。(21名の方が5.大変良い、一名が4.良い、6名の方は未回収)
北原先生の研究・実践の素地があっての結果だと思います。皆様本当に熱心で頭が下がる思いです。また吸収も早く、早速授業で行ってみると言われる先生もいて、そのフィードバックもお聞きしたいです。
さてここでは、実際に教室で実施する場合の補足説明とアンケートから気付いた事を記したいと思います。文中、「本」と書いてあるのは、拙著「生徒の英会話力が向上する 英語劇・ドラマメソッド」を指します。
補足説明:
➊【生徒と共通認識としてのルール】(本のp.52&p.102)
授業でこのような活動を導入される時は、例えばDrama Active Lessonなどと称し、他の英語の授業とは異なり、表現を学び表現しようという要素が多いことを示唆した方が良いと思います。そこでこのレッスンでは、心構えと言いますか、生徒と共通認識でルール(本のP.54とP.102)として上げている点を話してください。特に英語を話すことはその文化も背負っていると思いますので、このようなルールを共通認識で持っておいた方が良いと思います。
また授業で導入される場合、単発で終わるのでなく、このような会話練習を継続してやると効果があります。
➋【DDとSituationの違い】
*DD(本のp.80下段)は、どちらかというと強制的に行動、感情などを出すことを求めることがありますが、これは自分の表現の可能性を広めるための練習だと思ってください。普段私たちは居心地の良い(Comfortable zone)動きをするものですが、練習で普段使わない動きをしておくと、いざというときに思わぬ大きな動きが出る場合があります。そこで動きなどをする場合、普段使わない体の部分をなるべく大きく動かすように言っておくことが大切です。
*Situation(本のp.85)は、状況が設定されて、その時その場その相手によっての会話をすることになります。If you were in this situation, what would you do? をまさに体現するもので、話していることが自らの意志、自らの表現を出すことになり、その会話を経験することが大切です。経験するには、なるべく自分の知っている現実に近い状況が良いと思います。現実感を持たせるには、小道具なども用意すると良いですね。(本のp.59)
*表現に正誤はありません。ただ、その時に一番適切な表現はあると思います。それを出すためにDDで訓練をし、Situationの状況でその場に入り込み、一番適切な表現をしていく、ということだと思います。
*DDもSituationの練習も、6行前後の切れの良いところまでで良いと思います。長すぎると続かない場合があります。(本のp.65/107)
*英語が苦手な生徒が多い場合、セリフを代えなくてよいダイアローグの部分までで良いと思います。得意な生徒が多い場合、言葉を代えるところまで行ってほしいです。勿論理想は、言葉を代えても対話文を続けられるが目標です。(本のp.136(A) (B))
*発表は出来たら2回やると良いですね。(本のp.94中段)
*ペアの組み方は、北原先生が言われる方法もあると思います。それは「英語の比較的得意な(リーダー)と比較的苦手な人(パートナー)がペアを組む」というものです。参考にしてください。(本のp94 下段)
*Talk & Listenを実施する時の先生が話す英語のScriptが本に書かれています。(p.102~)内容は取捨選択してもよく、時間は目安です。
❸【アンケートよりいくつか】
a. Icebreakersが体を動かし分かり易く、直ぐに使えるので比較的人気があったかなと思います。
——気付かれましたでしょうか?実はこれらの英語は、ダイアローグを膨らませる時に使える表現でもあったのです。このように、今後授業でやられる場合、ダイアローグからの単語、フレーズ、また派生語を導入したり、広がりを持たせる言葉をゲームの中で使うと良いと思います。
b. Gibberish:言葉を教えているのに”メチャクチャ言葉とは何事か”と御叱りを受けるかもと思っていましたが、生徒が喜びそうだということで、人気があったと思います。非言語、表現の学習の一つとしてあって良いのですね。勉強になりました。
——これに似たものに ”With no words —言葉を話さないで— 手振り身振りで“のエクササイズもあります。いずれも何となく語るのでなく、伝えたい意味は心の中でしっかりと持ったうえで、GibberishやWith no wordsを行うようにしてください。
c. “音読” 活動によいと言われる先生も多く見られましたが、どちらかというとドラマメソッドは“朗読”活動です。
音読は、声に出して読むことで自己完結しますが、朗読は相手に話しかけて相手が理解しているかどうかまで気を配るものです。しかし全て朗読形式話すと疲れます。そこで実際は音読、朗読の組み合わせが良いと思います。
d. Play makingのパートで、発表まで持っていけたら良かったというご意見がありましたが、まさにそうですね。今回は時間の関係で端折りましたが、皆様の想像力を生かした、生き生きとした発表を見たかったです。
d. 教科書の本文で「登場人物の心情を理解し、気持ちを込めて音読する」というような目標が設定してある時にどう指導するかということですが、「気持を込めて表現して」と指示しただけでは、空疎な上っ面な表現になります。そこで次を指示してください。
1)ドラマメソッドは6W2Hです。(本のP.59,60)これの一つ一つを考えます。
2)そして、If you were in this situation, what would you do?(P.84)と指示し、生徒にそのシーンを行ってもらいます。その際演技は日常生活で行っている行動で構いません。P.83のActing is not showing, but doing; doing under imaginary circumstances. を思いだしてください。
ディーテルを詰めることによって、中身の伴った会話を経験していることになります。
*演技をさらに深めたい場合は、「何が登場人物のようにあなたに感じさせ、振る舞わせるのだろう(What would make you feel and behave as the character does?)」と自問させるアプローチも試みます。If you were~だけだと実施する俳優の思考・行動範囲に限られ、小さくなる場合があるからです。両方(If you were~とWhat would make you~)を自問し、より観客を訴える方を取ります。またはミックスしたものを。但し日常英会話学習のためなら、If you were~で自然に演技(行動)することで十分だと思います。
f. その他、「どのくらいの時間でどの位の劇が出来るのか」、「教科書をドラマメソッドで料理するとどうなるか」、「即興準備とは」など次回以降希望される先生がいました。
またストーリーを「群読」することもできます。これらは機会があればぜひ行いたいと思います。
g. 自治体での研修に来てくれないかなどお話があれば、喜んでいきます。これからドラマメソッド関係テキストをさらに2 冊作成予定もあることから、本格的には来年からと考えています。
h. アンケートの中に 嬉しい言葉が溢れていました。「言葉に命が吹き込まれ、その人自身が輝くことを実感した」「セリフが記号ではなく、意味を持つのだと改めて感じさせられた」「心と体がほぐされ、じぶんの声、身体、表情で表現できる幅がどんどん広がっていく事を実感した」などなどです。北原先生によって、鍛えられ、感性が溢れる先生が多く集まって大変有意義な会であったと感謝しています。皆様ありがとうございました。
以上